錺金具 — 京都で出会った伝統工芸職人

Imamiya Shrine平安時代、中国から伝わった文化が日本で花開き、様々な工芸が創られるようになりました。都のあった京都には官営工房が設置され、そこで培われた技術が日本全土へ波及したのですから、京都で伝統工芸に触れる機会が多いのは当然かもしれません。

そんな京都で知り合った後藤正太さんも、伝統工芸の職人さんです。名刺には『後藤社寺錺金具(かざりかなぐ)製作所』とあります。
Shota Goto錺金具とは、釘隠しやふすまの引き手、仏具、お寺などの装飾や保護に使われる金具などのこと。日本に住んでいれば、誰でも一度は見たことがあるはずです。

「幼稚園の頃にはもう、自分も家の仕事を継ぐんやなあと思うてましたよ。」
という後藤さんは、今は亡き御祖父様が始められた製作所で働く錺師(かざりし)。修業時代には御祖父様の側で技術を学びました。
鳥取にある神社の三男坊だった御祖父様は、ある時納品された御神輿のきらびやかな美しさに魅了されたのだそうです。早速京都の錺師に弟子入りし、その後京都市内の六条通に工房を構えました。
御父様の代になり山科へ移転。現在の工房は仏具扇子団地の中にあります。

Decorative metalworks
Tools錺金具は、基本的には銅で造られます。銅は熱を加えると柔らかくなり、加工しやすい為です。
銅板を裁断機や鋏で切った後、鏨(たがね)やヤスリなどを使って細工していきます。右写真は、工房を閉めた方から譲り受けたという様々な木槌や金槌。自分で道具を作ることも多いそうです。

表面に模様を施した後、金箔を貼ります。
その際に接着剤として用いるのは水銀。工房の奥に金箔を貼るための小部屋があり、空気中へ水銀が分散するのを防ぐ機械を使って作業します。
「水銀を用いるのは古来の技法で、金箔を一枚ずつ三回貼ります。錺金具の傷みは、摩耗によるものが多いんですね。だから、最初から三枚重ねて分厚くしたほうがずっと長持ちするんです。」

Decorative metalworks後藤さんが現在携わっているのは、名古屋城本丸御殿の復元事業。このような文化財などの修復を手掛ける場合には、通常の作業とは違う苦労もあるようです。
長い年月を経て色が変化したり緑青を吹いたりしている部分と新しく加える部分の風合いを揃える為、表面加工の試作を重ねたり、既に実物がないものは古い拓本を元に図面起こしから手掛けなければならないこともあります。
「同じものを何百個と作らならんこともありますしね。」

Wallets一方、伝統的なものだけでなく新しいことにも挑戦しています。
右写真は、錺金具をあしらったお財布。表面とファスナーの引き手部分に錺金具が、長財布の布には西陣織が使われています。

技術を次世代に伝えることも職人の重要な仕事のひとつですが、目下後藤さんの気掛かりな点は弟子の育成。なかなか長続きする方がおらず、頭を抱えているのだそう。

ところで去年私がドイツに住んでいた頃、どう見積もっても『少年』としか呼べないような若い職人さんがドアの修理に来てくれたことがありました。さらに驚いたことに、彼は十代前半にしか見えないお弟子さんを連れていました。
このとき私は、ドイツのマイスター制度の一端を目の当たりにしたと感じました。つまり、ドイツでは早い段階から職人の世界に入ってしっかりと学ぶことにより、技術が継承されるという仕組みが整っていることを実感したのです。Workshop
日本でも伝統工芸が受け継がれていくようにするために、考えるべきことはたくさんあると思いますが、まずは職人さんがその技術で食べていかれない世の中になってしまったら、なり手がいなくなるのは自明の理でしょう。
安さばかりを追っている世の中ではいけません。後藤さんの仕事のような確かな技には、きちんと対価を払って手に入れられる消費者でありたいものです。

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〈後藤正太さんの連絡先〉
後藤社寺錺金具製作所
〒607-8302
京都市山科区西野山欠ノ上町1-39
TEL:075-593-4842
FAX:075-593-4844
e-mail:goto-shaji@nike.eonet.ne.jp

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