再会はレジ横で

Göttingen(ゲッティンゲン)の街は小さいので、買い物などをしていると友達とばったり出会すことがあります。
つい先日もそんなことがありました。

Göttingen

スーパーのレジに並んで何気なく前を見ると、ふと疲れた様子のカップルが目に入ってきました。……あ、彼は去年の7月までドイツ語学校で一緒に学んでいた、スペイン出身のSさんだ!
「Hallo, S!」
声を掛けると、一瞬よぎったバツの悪そうな表情。それでもすぐに持ち前の笑顔に戻ったので、会話を続けました。
「Ausbildung(アウスビルドゥンク)の調子はどう?」

ドイツには、手に職をつけるための『Ausbildung』というシステムがあります。一週間(平日)のうち半分は学校、半分は実習の場(店舗など)に通って知識と技を身につけるというもの。修了するまでに通常3〜3年半かかります。
彼は8月から、ハムやソーセージを作る職人になるためのアウスビルドゥンクを始めたはずでした。

ドイツ語学校で一緒だった頃、彼は希望に燃えていました。毎日遅刻はしていましたが勉強に対しては真面目で、文法もきちんと理解していました。アルバイトをしながらもあんなに頑張っていたのは、アウスビルドゥンクを始めるという目標があったからです。

S 「スペインでは、俺のような若い世代の半分は仕事がないんだよ。あっても月給800ユーロ(=10万円前後)もらえればいいほうだな。」
私「スペインで仕事がなかったからドイツへ来たの?」
S 「違うよ、彼女がドイツで働き始めたから俺も来ただけだよ。」

初めて会った頃彼はこう言っていましたが、半分強がりでしょう。
この世に生まれてきた以上、人間はとにかく生きていかなければならないのですから、『食べられる』場所へ移動するのはごく当たり前なこと。日本に続いてGDP世界第4位のドイツへも、紛争が起こっている地域、経済状況の不安定な国などから多くの人々が生活の糧を得に来ています。ゲッティンゲンにも留学生や研究者だけではなく、そのような移民も多く住んでいます。
彼もまた、生きるためにドイツへ来たのでしょう。

Supermarkt

スーパーで私がした質問に、彼は答えにくそうに続けました。
S 「いや、今はアルバイトをしながら大学進学を目指しているんだ。」
私「え……?何学科?」
S 「政治学。」
私「(心の叫び:え、お肉屋さんとは全然関係ない分野じゃん!)……じゃあ、今年の9月の入学を目指しているんだね。」
S 「違う。まずドイツ語のレベルを上げなきゃいけないから、入学は来年以降かな。」

なぜアウスビルドゥンクを辞めたのか、いや、アウスビルドゥンクを辞めたのかどうかすらはっきり聞けない雰囲気のまま、去って行った二人。
つい半年前には、ドイツ語会話のテストに向けて、パートナーを組んでいたSさんと一緒に随分と練習を積んだものだったなあ……あのときは、ドイツ語が下手な私をあんなに励ましてくれていたのに。やっぱり職人の世界は厳しかったのかなあ、それともドイツ人と一緒に受けるドイツ語での授業についていけなくなったんだろうか。
二人で支え合って、なんとか生き抜いてくれ……! 思わずそう願わずにはいられない夜でした。

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