スウェーデンの森から学んだこと

Countryside in Sweden「友人に会いに、スウェーデンへ行く予定なの。」とドイツ人の友人に話したところ、
「スウェーデンってあちこちに湖があって、湖畔で一日中本を読んだりしてのんびり過ごすのよね。いいなあ、私も一度行ってみたい!」
と言われました。

私が滞在したのは、森の中にある小さな赤い木造住宅でした。典型的な昔ながらのスウェーデンの家です。
ストックホルムから車で2、3時間の場所で、近隣には農地が広がり民家はまばら。隣家までは1km程あり、夜は真っ暗で、雲がない日には夜空にきれいな天の川が見えました。空気もきれいです。
近くには友人の言うとおり湖があって、昔はそこで漁業も行われていたそうです。

a small lake in Sweden
ただし滞在した家は、1800年代に建てられた水道もガスも通っていない古い家屋。毎朝裏山から水が引かれている小屋で水を汲んで母屋へ運んだり、薪ストーブで調理をしたりと自分の手でやらなければならないことが多く、なかなか友人が言ったようにノンビリとはいきませんでした。

Woods in Sweden
Woods in Sweden今回の滞在中に、いくつかの森を散歩する機会がありました。
美しい苔で覆われたフカフカの地面には、様々なきのこが生えていたり、動物の足跡やヘラジカの骨なども発見できました。
夏の終わりでしたが、それらの森にはブルーベリーやリンゴン(コケモモのこと。スウェーデンでは『リンゴンベリー』とは言わないそうです)が、一目見ただけで「絶対に全部採ることはできない」と確信できるほど一面に実っており、スウェーデンの森の豊かさを思い知らされました。

Woods in Swedenそんなあるとき、森の脇道にエプロン姿の年配の女性が立っていました。スウェーデン人の友人を見て、微笑みながら手を振ります。
「彼女は近所に住んでいて、この森で採ったブルーベリーを市場で売っているの。たしか80歳代だけどあんなに元気なのは、毎日ブルーベリーを食べているからなのよ!」
とてもそんな歳とは思えない若々しい外見だったので、友人の言うブルーベリー効果は本当なのかもしれません。

ところで、スウェーデンには allemansrätten(アッレマンスレッテン)という法律があります。これは元々慣習から明文化されたもので、全ての人は基本的にどこの森へも入ることができ、ある程度の木の実やきのこなどを採取できる権利がある、という内容です。あの元気な女性も、慣習として森へ入ってブルーベリーを採っていたのでした。

Woods in Swedenしかし最近、問題が起きているという話。
スウェーデンの法律を逆手に取り、企業が外国から人員を雇って森のブルーベリーを根こそぎ採っていってしまうそうです。スウェーデンに住む人々は、次の年もブルーベリーが実るようにある程度は残すし、どの程度採ってよいかわかっている。でも彼らはそうじゃないから、森が荒れてしまうのだそうです。

それについて、「私ほどブルーベリー好きの人間はいない!」と豪語する別の友人と話す機会がありました。彼女も、恐らく他の多くのスウェーデン人と同様に小さい頃から森へ入ってベリー類やきのこを採っていた経験があり、ストックホルムに住む現在もたまに森へ行くそうです。
彼女はこんな風に言っていました。
「問題が起きているのは私も知ってる。でもだからといって『アッレマンスレッテン』を変えてしまったら、スウェーデンが、スウェーデンの心がなくなってしまうわ!」

Lingonberry in Swedish woods
Swedish forest彼女のこの言葉を聞いたとき、私はハッとさせられました。
スウェーデンに住んでいた頃、スウェーデンの皆さんが私のような外国人とも垣根無く接してくれたり、道で困っていれば声を掛けたりしてくれる温かい環境にいたく感激していたものです。もしかしたらそれは、大多数のスウェーデン人がきれいな英語を話せるため、コミュニケーションを図り易いからかもしれないと思っていました。
しかしそうではなく、そもそもスウェーデン人の懐が深いからではないか。だからこそ、永年多くの移民を受け入れながらもスウェーデンという国はきちんと回っているのかもしれない。
今回の旅で彼女の言葉を聞き、初めてそう思い至りました。

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